大学入学選抜の改革とKLAS
校長 渡邉 博司
日本の社会は情報・技術の著しいし発展、グローバル化の波に晒され、大きな転換を迫られています。教育の世界でも、「高校の教育」、「大学の教育」、そして「大学入学選抜」の3つを一体的に改革しようとしています。
文部科学省は2018年3月に新学習指導要領・高校(以下新要領)を発表し、改革がめざす新しい「学力観」が示されました。
求めるべき学力の3要素
1. 知識・技能
2. 思考力、判断力、表現力
3. 主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度
日本の各高校ではこれから2や3をめざした指導を探って大きな転換がなされていきますが、KLASにとっては90年代から実践が進んでおり、いわばお家芸のようなものです。しかし、日本語系の科目ではまだ進歩の余地が多いので各教科で「アクティブラーニングによる授業改革」を進めており、そのことを昨年2月に紹介しました。
今回は、3つの改革の内の「大学入学選抜の改革」の先行きを確認しながら、KLASについて述べてみたいと思います。
入試改革の目玉は現行のセンター試験の改革で、これに代わる「大学共通テスト(以下共通テスト)」が2021年1月に施行されることが決まっています。新要領で学んだ高校生が最初に受ける新テストは2025年1月からですが、国語、数学、英語では先行して「共通テスト」が行われるのです。国内では現在の高1生が最初の対象ですが、本校では現11年生(高2)以降が対象となります。
21年共通テストの変更の中身を見てみましょう。
<国語・数学>
「思考力、判断力、表現力」を評価するための記述問題が導入されます。正確な読解と問題把握をもとに、正しく推論することで得た答えを適切に表現します。
<英語>
コミュニケーションを重視して、「話す」「書く」が強調されます。「聞く」「読む」はこれまで通りですから、4技能を評価する試験になります。そのため民間の英語資格・検定試験(外部英語試験)の活用が各大学に求められています。「共通テスト」の英語は2023年までは続けられますが、それまでの間は各大学の判断で共通テストと外部英語試験のいづれか、または双方を選択利用するとされています。
KLASでの現状と対応も見ておきましょう。
<国語>
これまで、文章表現や口語表現の指導に加えて、グループ討議、グループとしての考えをまとめるなどのアクティビティを多用するなど、上記2や3に対応しようとしています。今後は、より深い思考に向けた指導をめざします。
<数学>
これまで、暗記や公式だけにたよる解法にならないよう、論理を重視した指導を行ってきました。さらに、生徒同士で教えあったり、討論の中から解法を導くような指導も行っています。
<英語>
ご承知の通り、KLASの英語はアクティビティによってコミュニケーションの練習をするのがその本質です。持っている語彙と文法を活用して、伝え合う、話し合う、まとめる、深く考える、正しく表現しあうなどのアクティビティの繰り返しによって、コミュニケーション力(4技能)を高めます。
また、IELTSとTOEICのスコア(所定期間内)は外部英語試験の結果として提出可能です。
上記2の「思考力、判断力、表現力」は言語の能力と非常に密接な関係を持っています。その点では、「思考力、判断力、表現力」を鍛えるのに国語と英語の二つの言語を利用できるのはKLASの生徒にはとても大きな利点です。一見逆説的に聞こえますが、第2言語である英語で伝え合い、話し合い、討論し、思考することは、言うべきこと、聞いた内容、争点、論理などがよりはっきりするので、より核心的で本質的なコミュニケーションになります。学校の教室の内外で行われる「コミュニケーションの練習」はそのまま「思考力、判断力、表現力」の訓練にもなっていると私は考えています。
私立大学や国公立大学の2次試験はどう変わるでしょうか。これらの入試問題は共通テストの動向を見ながら判断がなされるでしょうが、すでに新要領が発表されている以上、2025年に向けて知識・技能、思考力、判断力、表現力に沿った出題方式への準備が進むでしょう。(すでに一部で見られている)
さらに、推薦入試・AO入試についても見てみましょう。2017年度には推薦・AO入試による大学入学者の割合は44.3%でした。入学定員に対する割合はすでに50%を超えており、全国的に推薦・AO重視の傾向にあります。また、18歳人口の逓減傾向や大学の入学定員厳格化により、今後有力大学でも推薦・AOで優秀な学生を早めにより多く確保しようとする傾向は強まるでしょう。
では、この「大学入学選抜の改革」によって推薦・AOの選考そのものも変わるのでしょうか。高校改革についての『最終報告』(2016年3月)は、推薦・AO入試においても「知識・技能」「思考力、判断力、表現力」を評価することを求めています。そのために、小論文、プレゼンテーション、口頭試問、実技、資格・検定試験の成績などの活用を提案しています。したがって、推薦・AO入試の選考は、大学の判断によりますが、その軸をより「思考力、判断力、表現力」に移していくと思われます。
このように、長い議論を経て、「高校改革」と「大学入学選抜の改革」の中身は固まり、すでに実行の段階に入りました。その一方で、保護者からは将来の大学入試制度の変化への不安をたびたび耳にします。しかし、実態としては推薦入試・AO入試はもとより、一般入試においても、KLAS生はこれまで以上にその力を発揮しやすくなると私は見ています。
現在の日本で進む三つの改革そのものは80〜90年代に先進各国で既に行われたknowledge(知識)からcompetency(能力)への転換をなぞるようなものですが、90年からインターナショナルな学校文化と日本の学校文化とのハイブリッドな学校としてやってきた本校には一日の長があり、この土壌を生かして、新学力の3要素を育てていきたいと思います。生徒たちがこのアドバンテージを生かして自己実現を果たせるよう、より良き指導に邁進いたします。