去る3月5日、JICA緒方貞子平和開発研究所主催のナレッジフォーラムが開催され、本校の10名の生徒と複数の教員がオンラインにて参加しました。この企画はKLASの生徒達が国際協力機関について学べるよう、長年尽力してくださっている川畑教諭が呼びかけて実現したものです。このフォーラムでは、「途上国が抱える開発課題の解決に向けて、民間企業のリソースやイノベーションをどのように活かすか」や「企業関係者、金融機関、ポリシーメーカーや市民社会がどのように協働する必要があるか」といった点について、ビジネス界やアカデミアからの有識者による議論が繰り広げられました。
話題に上がった例を一部ご紹介しますと、2013年以降、インド国内の全ての企業は社会的貢献のための負担(CSR)を義務付けられているそうなのですが、最近では法律に規定された金額以上を供与する企業が増えているという報告がありました。インドでは「富をもつ者は、もたない者に与えるべき」という考え方が浸透しており、この法律は好意的に受け入れられているそうです。インドにおけるこの事例は他国においても参考になるかもしれません。

また、ガーナ栄養改善プロジェクトの事例も画期的で興味深いものでした。ガーナでは、栄養素不足による5歳児以下の子供の発育阻害が大きな社会問題となっていました。その解決に向けて、味の素(株)(後に味の素財団)はガーナ政府と連携し、看護師による栄養教育と合わせた離乳児向け栄養サプリメントKOKO Plusという製品の販売を開始しました。その後、異業種のNECやSysmexと提携することにより、母子手帳の電子化、アプリとの連動、質の高い検査を実現させ、より汎用性の高い医療システムを構築することに成功しました。これらの取り組みにより、ガーナ保健所は健康状態を的確に把握し、母子への栄養指導を一層推進させられるようになった他、診断技術の普及により、病気の早期発見、検診後のフォローアップがしやすくなり、ガーナの公共医療が著しく改善されました。今後このシステムをアフリカの他の地域に広げて行くことが次の目標だそうです。ある日本企業の取り組みがきっかけとなり、これほど顕著な社会変革を成し遂げることができたことに、驚きを覚えました。
このフォーラムは大学の講義を思わせる高度な内容でしたが、参加した10名の生徒は2時間にわたり、熱心に聞き入っていました。国際協力の実情について、その道の専門家から学んだ経験はとても刺激的だったのではないかと思います。参加した生徒の感想を以下にご覧ください。
■SDGs促進に向けて
12年生(高3)女子
今回のセミナーは、「ビジネスの力を途上国のSDGs促進につなげるためには」という題目で開催されました。2回目の参加でしたが、今年は、ビジネスと国際開発学というどちらも私が強い関心を抱いている分野だったので、より一層期待していました。
私が特に印象に残ったことは、インドにおける企業のSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)貢献の制度化についてのお話です。初めに、CSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)事業の対象に偏りがある、NPOへの依存、保健、教育に支援が集中しているなどの現状を知りました。これらに対し、企業の社会貢献、国際開発目標の達成から、CSRの義務化には大きな意義があることを学びました。また、日本における取り組みについてのお話を伺うこともできました。
日本の直接投資は欧米諸国に集中しており、アジア以外の途上国にはほとんど行われていないことを知りました。そのため、ODA(Official development assistance:政府開発援助)のあり方を見直し、官民が連携して共に創り上げる「官民共創」を目指していく必要があると感じました。これらを踏まえ、中小企業を含む民間企業がSDGsに貢献する方法について、より深く考えていく必要があると思います。そして、ビジネスの利益を追求することが、どのようにして世界への貢献につながるのかという疑問が生まれました。
最後に、参加者の方々がパワーポイントを使って、個々の経験を発表してくださいました。ガーナでの栄養改善プロジェクトやサプリメント、アプリの開発は現地併走型の日本らしい方法であり、とても効果的だそうです。ガーナで培った政府の仕組みや活動を反対に日本の企業にプラットホームとして提供するという取り組みは、私にとって新鮮な発想だったため、興味深かったです。さらに、企業との共創による社会問題の解決についても学ぶことができました。例えば、エチオピアでのコーヒー生産とUCCや、インドネシアでの地熱発電ビジネスと日系企業など、各国の産業と企業が連携することで、持続可能なエコシステムの形成に繋がることを知りました。今回のセミナーを通じて、多くの新たな気づきや発見がありました。このような貴重な機会をいただけたことに感謝し、私も、将来世界で活躍できる人になれるように頑張りたいと思います。